特許調査のセオリー(1) 費用対効果の最適化(2020.12.16)

私は、弁理士として出願権利化業務と特許調査業務を並行して行っています。
公報閲覧室での手めくり調査の時代から、データベースを利用した調査の普及、人工知能(AI)を活用した調査ツールの登場を経て、今後益々重要になっていく特許調査について、人間が自ら考えることの重要性を実感しています。

どう探すのか(How)ではなく、なぜ調査を行うのか(Why)、調査によって解決しようとする問題の本質は何であり、課題を解決するために何を探すのか(What)、人間が想定力を発揮して考えて仮説検証を繰り返すことが重要です。
ここでは、特許調査について基本的な考え方(セオリー)である費用対効果の原則について述べたいと思います。

特許調査において非常に重要となるのが「費用対効果(コストパフォーマンス)の原則」です。徹底的に調査をして検討すべき全ての資料を調査し尽くすカバー率100%の調査を行うことが理想的ですが、現実的にはそのような調査はコスト(費用や時間)の問題で不可能・非実際的です。特許に関する情報量は爆発的に増加中しており、調査対象となり得る資料の数量は今後も減ることはありません。
一般的には、ある程度までは、コストを掛ければカバー率が向上しますが、カバー率が向上するにつれて必要なコストは急上昇してしまいます。どの程度まで徹底して調査を行うのか、カバー率を決める要因としては、リスクの大きさ、自社の事業の規模、事業の継続性、競合関係、懲罰的損害賠償が認められており損害賠償額が大きくなる可能性がある米国等での事業であるか否かなどが挙げられるでしょう。

この「費用対効果の原則」は、調査を外注する際のみならず、事務所内・会社内で調査を行う際にも重要となることに留意すべきです(組織内の人的リソースの利用にも当然コストが発生します)。どの程度まで調査に対するコストを払うことが可能なのか、事前に良く検討しておくことが大切であり、コストに見合った調査を設計して実行しなければなりません。

侵害予防調査(侵害防止調査、クリアランス調査)については、リスクの評価を厳しくすればする程、際限なく検索範囲を広げることも可能ですが、必要なコスト(時間と費用)も発散してしまいます。

調査を依頼されるときに、依頼者から「この製品の侵害予防調査を行う場合の御見積り金額はいくらですか」と聞かれることが多いのでが、その回答は、「リスクやビジネスの規模等を総合的に判断した場合に、御社が使うことが可能な費用はいくらですか」となります。その上で、使うことが可能な費用の範囲内でリスクを可能な限り低減させるべく、調査を設計することになります。

出願権利化等の弁理士業務に加え、法的知見を活かして知財に関する調査も多く扱っている経験を踏まえて執筆した著書、「侵害予防調査と無効資料調査のノウハウ~特許調査のセオリー~」(一般財団法人経済産業調査会)が発行されていますので、ご参考にして頂ければ幸いです。

詳細はこちらからご確認ください。
「財団法人経済産業調査会 出版案内」(https://books.chosakai.or.jp/books/catalog/30596.html

弁理士 角渕由英