2020年の特許法改正により、「査証制度」が創設されました〈2020年10月1日施行〉(2021.1.26)

  • 「査証制度」とは?
    査証制度は、新たに制定された、侵害訴訟において証拠収集するための手続きです。
    特許権侵害の被害者(特許権者)は、「査証制度」を利用することで、相手方(被疑侵害者側)にある証拠を集めることができ、その証拠により侵害を証明することができるようになりました。

  • 「侵害訴訟」とは?
    特許権者が、自ら所有する特許権が無断で使用された(侵害された)場合に、無断で使用する相手(侵害者)に対して、何らかの責任を追及するために起こす訴訟です。
    具体的には、侵害者に対して損害賠償の請求や、特許の無断使用を差し止める差止請求が行われます。


  • 「査証制度」導入の経緯
    侵害訴訟では、特許権者が、侵害者の侵害行為を立証する必要があります。査証制度が創設される以前にも、侵害行為の立証をサポートする制度として、生産方法の推定(特許法第104条)、具体的態様の明示義務(同第104条の2)、文書提出命令(同第105条)、裁判所によるインカメラ手続規定(同第105条第2項)等がありました。しかしながら、近年増加傾向である、製造方法の特許権侵害、B to B製品など市場で手に入らないものやソフトウェア製品の特許権侵害については、証拠が相手方にあることが多く、特許権侵害を立証するための証拠集めが困難でした。例えば、侵害が疑われる行為が、被疑侵害者側の工場等で行われており、立ち入ることなくその証拠をつかむことは困難です。そのため、既存の制度では立証が不十分である場合があると指摘されていました。
    「査証制度」は、このような問題を解決することを期待して導入されたものです。

  • どんなことができるようになったのか?
    上述したように特許法の改正により、「査証制度」という証拠の収集手続が新設されました(特許法105条の2~105条の2の10の新設)。

    侵害訴訟を提起した後、当事者が申し立てることで、所定の要件を満たした場合に「査証制度」を利用することができます。

    この「査証制度」とは、裁判所の命令によって、中立公正な専門家(弁護士、弁理士などが想定されます)が、相手方当事者の工場などにおいて必要な資料を収集して、報告書を裁判所へ提出するものです。この報告書は、申立人(特許権者)が証拠として利用できます。

    相手が調査を拒んだら、査証を申し立てた当事者(特許権者)の主張が「真実である」と認められる可能性、つまり「侵害があった」と認定されます(特許法第105条の2の5)。


    なお、諸外国においては、強制力のある証拠収集手続きが導入されています。
    例えば、アメリカでは、証拠収集手続きとして、ディスカバリーと呼ばれる当事者の請求に基づき事案に関連する広範な証拠を互いに開示させる手続きがあります。また、ドイツでは、裁判所が任命した専門家及び執行官が立ち入る査察制度があります。
    今回の改正特許法により導入された「査証制度」は、諸外国で実施されている強制力のある証拠収集手続の日本版となるものです。

  • 今後の侵害訴訟
    今まで、第三者による特許権の侵害が疑わしい場合であっても、証拠を集めることが困難であるため放置されていることがしばしばありました。このような状況では、侵害した者勝ちということとなり、特許権の価値が疑わしいものとなってしまいます。
    査証制度が設けられたことにより、特許権の保護が有効に実行されることが期待されます。
    一方、侵害訴訟が提起され被疑侵害者となった場合、査証が行われる可能性があることを認識して、訴訟対応をしていく必要があるでしょう。

<参考文献>
特許法等の一部を改正する法律(令和元年5月17日法律第3号)特許法等の一部を改正する法律の概要(PDF)(経済産業省)

弁理士 前島一夫